有給休暇はなぜ取れないか?(完結編)
有給休暇の取得をめぐる議論をするとき、使用者(会社)側からも労働者側からも「権利」と「義務」という言葉が乱れ飛ぶ傾向にあると感じるので、これまで、それぞれの「権利」と「義務」についてまとめてきました。今回は完結編という事で、解決方法について考えてみたいと思います。
前篇( http://rodojikan.airyplace.jp/2014/08/blog-post.html)
中編( http://rodojikan.airyplace.jp/2014/08/blog-post_14.html )
有給休暇はなぜ取れないか?・・・という問題を「権利」と「義務」から考えてみたとき、使用者と労働者は、根拠も対象とする日も異なる「権利」と「義務」をひとつづつ持っているという話をしました。
もう一度、図を引用します。
「権利」と「義務」という言葉は、人と議論をするとき、とても便利な言葉です。自分の「権利」と相手の「義務」を、相手に認めさせることができれば、自分の主張を認めさせることができる・・・ように思います。
しかし、有給休暇をめぐって「権利」と「義務」を主張しようとするときは、注意が必要です。上図のように、2組の「権利」と「義務」があり、間には「越えられない壁」があるのです。
多くの有給休暇をめぐる労使のトラブルで、双方の主張を聴く機会がありましたが、チグハグな議論が多かったように思います。
< 使用者側の注意点 >
法定年次有給休暇については、厳格な規制があります。
原則として労働者の何日に休暇をとりたい旨の意思表示によって休暇が成立し(ただし、使用者に時季変更権があるが)、使用者の承認を要せず(承認は使用者の時季変更権の不行使の意思表示となる)、休暇の利用目的を記載する必要もなく、手続きについても「二日前までに文書をもって行うこと」等も訓示規定としてなら有効であるが、これ以外の方法は一切認めないというのは無効となり、買上げ等も禁止されている。
( トップ・ミドルのための 採用から退職までの法律知識 安西 愈著 より引用 )
会社側には「労働者の有給休暇を取得する権利」を止める手段はありません。なぜなら、有給休暇は会社の規定ではなく、「労働基準法」で定められているからです。
労働者には「業務をキッチリやる義務」がありますが、「業務をキッチリやる義務」から見て「越えられない壁」の向こう側に「有給休暇を取得する権利」があります。
< 労働者側の注意点 >
労働基準法には、労働者が有給休暇を取得する権利が定められています。
しかし、免除されているのは、休暇日の労働義務だけです。
有給休暇日の前後日について、会社側には「休暇前に、休暇中の仕事を前倒しにダンドリするよう指揮・命令する権利」「休暇中、他の従業員が代わりに仕事ができるように(事前の出勤日に)引き継ぎしておくよう指揮・命令する権利」「休暇後に、休暇中できなかった仕事をフォローするよう指揮・命令する権利」があります。
会社側が、「有給休暇を取らせない」という脱法的意図をもって無理難題を言う・・・なんてコトは当然許されるべき事ではありませんが、「出勤日にやるべき事をやっていない」という事になると、たとえば評価等に影響するかも知れません。この時のマイナス評価は、「有給休暇取得」に対する不利益な取り扱いと言えるのでしょうか?。あくまでも「出勤日にやるべき事をやっていない」事に対するマイナス評価だと主張されるかも知れません。この点について、労基法附則136条は、結構微妙な言い回しです。
第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
使用者には「有給休暇を与える義務」がありますが、「有給休暇を与える義務」から見て「越えられない壁」の向こう側に「出勤日の業務をキッチリやるよう求める権利」がある・・・と言えると思います。

有給休暇をめぐるトラブルの際、労使が「権利」と「義務」を持ち出して議論する様を見ていると、なんだか「越えられない壁」をはさんで「届かない槍」で相手を攻撃しようとしているように見える事があります。
しかし、そのような無意味な戦いをすることは、労使双方にとって意味があるんでしょうか?。おそらく戦いを続ければ職場の雰囲気はドンドン悪くなり、業務のパフォーマンスはガンガン落ちると思います(これは、たとえ労働者側が不満を口にしないでガマンをしている場合でも同様です)。
「義務を果たさないで権利ばかり主張する!」という言葉を、相手に対してではなく自分に対して投げかけてみてはいかがでしょうか?。労使双方とも、「権利」と「義務」を1つづつ持っているのです。で、あれば、労使双方が相手の「権利」を尊重し、自分の「義務」を誠実に果たすべきではないでしょうか?
相手の「権利」を尊重しないで、自分の「権利」だけ認めてもらおうというのは、なんだかムシのいい話だと思います。
そもそも労使とは闘うべき相手ではなく、一体となって業務を遂行し目的を果たす仲間です(・・・と私は思います)。
「有給休暇が気持ちよく取得できるように、労使共に話し合う」という事は、とても意味のあるコトだと思います。
以上、解決方法としてまとめると
- 自分の「権利」のみ主張し、相手に対し「義務」のみを押し付けてもムダ(越えられない壁をはさんでいるから)
- むしろ、相手の「権利」を認め自分の「義務」をキチンと果たすようにした方が、双方共に利益が多いのではないか
- 特に使用者は、労働者の持っている「権利」が法律で定まっている事に十分留意する必要がある(止められないってコト)。
以上、有給休暇はなぜ取れないか?でした。
最後にもう一度念を押しておきましょう。このブログに書かれている事は、すべて私の私見です。