労働者の義務はどこに!?(有給休暇編 後編)
使用者の時季変更権に対応する義務が、法律には書いてない・・・という労働者の主張についての後編です。
ちなみに、「こんな理屈っぽい変なコトを言うヤツなんていないだろ・・・」と思われるかも知れませんが、コレ実はノンフィクションです。いろいろ特定できないように脚色してるけど。
で、さっそくですが、まず、労働基準法に書かれている「労働者の義務」について確認してみましょう。
労働基準法に登場する「義務」は、ほとんど「使用者の義務」ですが、「労働者の義務」がまったく書かれていないわけではありません。
(労働条件の決定)
第二条
労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
○2
労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
「労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行する義務」という「義務」が、使用者にも労働者にも、双方に課せられています。
労働協約は、労働組合法第14条に登場します。「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関するコト」が書かれています。
就業規則にどんなコトを書くか使用者の自由ですが、労働基準法 第89条で、必ず書かなければいけない項目が決まってます。「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇・・・」といった内容でした。
労働契約もどのような契約を結ぶか、原則、当事者(使用者、労働者)の自由ですが、労働基準法 第15条で、契約締結の際に使用者が明示しなければならないコトがきまってます。「労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件・・・」といった内容でした。
以上のコトを整理したうえで、今回の問題に関連する「労働者の義務」をピックアップすると、
就業規則及び労働契約により「労働義務がある日」が定められている(労働基準法 第15条、第89条)。そして労働者は、誠実に「労働義務がある日の労働義務」を履行する義務を負っている(労働基準法 第2条)
(「労働者の義務」だけピックアップしましが、法規定には使用者の義務も書かれています。念のため)
労働者の義務について整理したところで、次は、「使用者が有給休暇を与える」とは、具体的にどういう行為をいっているのか確認しましょう。
休暇とは、「労働者の労働義務がある日について、使用者が、その労働義務を免除した日」という意味でした。ですから、「有給休暇を与える」というのは、具体的には、使用者が「労働義務がある日の、労働義務を免除する」というコトです。
- 労働者が、有給休暇の時季を指定する【時季指定権】(いつやすむか、使用者に請求する)
- 使用者が、請求された日に有給休暇を与える【有給付与義務】(請求された日の労働義務を免除する)
- (事業の正常な運営を妨げる場合は)他の時季に与えることができる【時季変更権】
という、一連の流れを動画にしてみました。
ということで、
- 「有給休暇を与える」ということは、具体的にいえば、使用者が労働義務を免除すること。
- 「他の時季に与える事ができる(使用者の時季変更権)」とは、具体的にいえば、「労働者が指定した日の労働義務を免除するのではなく、別の日の労働義務を免除することができる」ということ
- したがって、労働者の指定した日の労働義務は免除されず、その日、労働者には労働義務がある。
- 労働義務の根拠は、就業規則・労働契約。労使ともに「誠実に各々その義務を履行しなければならない」(労働基準法 第2条)
ということになるでしょうか。
以上、「労働者の義務はどこに!?」編をおわります。
ところで、会社のなかには、就業規則を作らない・見せない。労働契約書を作らない・・・なんて会社が結構あるそうです。そんな会社は、どういうつもりなんでしょうかね。